2026年のFIA-F4選手権シリーズ チャンピオンクラスで最終大会を待たずにシリーズチャンピオンを獲得した白崎稜選手(HYDRANGEA Kageyama Racing)。メーカー育成選手以外ではシリーズ初となるドライバーズタイトルを獲得したその道のりは、カートからフォーミュラへと一直線に進む順風満帆なレースキャリアではなかった。
一度はレースの道を諦め、大学時代に学生フォーミュラに出会ったことで再挑戦を決意。大学院への進学、社会人生活を経て、FIA-F4参戦3年目で頂点に立った。今シーズン6連勝を記録した白崎選手。その速さは、どのようにして生まれたのか。そして、一度離れたレースに、なぜ再び挑もうと思えたのか。RACING-DRIVER.JPは、王座獲得を果たした白崎選手に、その思いを聞いた。
地元に戻り、気持ちを安定させられる時間が増えた
2025年シーズンは優勝を複数回挙げながらもシリーズランキングは3位。今季の挑戦は、その悔しさから始まった。
「昨年はシリーズ3位ということで何より悔しい思いが強かったんです。特に開幕戦で獲れたはずの優勝を獲れなかったことが自分の中では一番大きかったですね。当時は生活の拠点を京都にしていて、KEDという会社に勤めながら参戦していました。F4を継続するとなると3年目になるので、資金的にも、心の余裕という意味でも実は厳しかったんです。そこで一旦関東に戻って、HYDRANGEAで働きがながら参戦することを決めたのが今年です」
今はチーム運営に関わる業務をはじめ、代表の仕事を支えながら競技を続けている。KEDともテストドライバーとしての関係を継続しているという。生活拠点を変えたことは、レースに向き合う気持ちにも変化をもたらした。
「地元の埼玉に帰ってきて、今は銀座の拠点に勤めています。銀座はあまり行ったことがなかったので、それはそれで不安もあったんですけど(笑)、一番は埼玉に帰ってきたことが精神面では一番大きかったのかなと思います。地元には大変ありがたいことに応援してくださっている方々が本当に多いんです。スポンサーの皆さんもそうですし、チームのスポンサーさんも関東に多くいらっしゃります。いろいろな方にお話を伺ったりお話をすることで、精神面を安定させられる時間が増えたかなと思いますね」
支援者との距離が近くなったことは、モチベーションにもつながっていた。
「関東に戻って来てからスポンサーさんとお話しする機会が増えたんです。『今年は頼むよ』『チームチャンピオンを2年連続で獲ろう』という言葉を掛けていただくと今年こそ成し遂げなければと思うことがより強くなりました。メーカー系チームでなく、プライベーターでドライバーズタイトルを獲ることは前人未到なので、それを達成するんだというのが今期の一番の原動力だったかもしれません。僕が一番最初にそれをやってやろうと思っていましたね」

「タイヤをどう仕事させてあげるか」を考え続けた
今季の速さについて尋ねると、白崎選手が挙げたのは、タイヤの使い方だった。
「今年はとにかく、タイヤをどう仕事させてあげるかをテーマに走ってきました。タイヤの表面を傷つけないようにすごくゆっくり、丁寧にステアリングを切ってあげる。ブレーキもアクセルもそうですけど、ピッチングにおいても、ローリングにおいても、タイヤに優しく走ることを気にしていました。予選も決勝も結局、タイヤのグリップがないと厳しくなってしまいます。そこが一番ですかね。特に大きくスタイルを変えたわけではなくて、ステアリングを切る速度ぐらいかなと思います」
細かなマシンの操作技術を磨くうえでは、チーフエンジニアとのやり取りも欠かせなかった。
「チーフエンジニアさんの言葉を聞き、走行で実践し、セッションが終わるとコミュニケーションを多く取っての繰り返しで、どうすればチーフが言っていることをドライビングに反映させられるかをトライアンドエラーを重ねる。それは今季に関わらずずっとやってきたことですね。スキルアップの観点でもこの反復が一番貢献が大きかったかなと思います。オンボードも見るのももちろんですし、チームメイトの走行データを比べて、何が起こっているのかを見ながらチーフとは常に話をしていました」
ヘイローを備えた現行のFIA-F4車両についても、自分のスタイルに合っていると感じている。車両の動きをイメージし、操作につなげていく対応の早さには、自信があったという。
「あまり無理をしないドライビングが僕の中では一番かなと思います。攻めたところでタイヤロックにつながることもありますし、タイヤがあまり温まっていなければ、タイヤを削ってしまうことにもなるので。マシンの動きをドライビングのイメージに落とし込むのは僕は早かったのかなと思います。他のドライバーよりも、順応速度が早そうだなと感じることもありそれは強みなのかなと感じていました」
学生フォーミュラで見つけた、もう一度レースに挑む理由
初めてのマシンやコースへの対応には自信があるという白崎選手。その理由を聞くと学生フォーミュラでの経験に話が及んだ。
「走ったことのないサーキットでも乗ったことのない車でも初めての条件で争うなら他のドライバーに勝てる自信があります。学生フォーミュラのときに、自分で調べたことを設計に生かして、自分でドライブして、何が起こるのかが何となく分かったんです。僕が足回りを設計したわけではないですけど、CADを見ながら『こういう傾向の設計だよ』という話を聞いて、実際に自分がドライブしていました。そこから、この車体設計だったら、このぐらいのブレーキングでマシンが止まるだろうといったイメージができるようになりました」
ただ、理論だけですべてが分かるということではない。走る前に傾向をつかみ、実際に乗って確かめる。その両方を大切にしている。
「理論をもとに傾向はつかめます。そのうえで、理論をもとに乗ってみて精度を確かめる感じですね。傾向がつかめるだけなので、あとは感じたままに乗る。最後は僕のアドレナリンに任せるしかないですね笑」
白崎選手がカートを始めたのは9歳の頃。父親に連れられて訪れたレンタルカートをきっかけにレーシングカートの世界へ入った。その後、一度はレースの道を諦めたが、学生フォーミュラでマシンを学ぶ時間が再挑戦へのきっかけになった。
「自分のセンスだけでは無理だと分かったから一度レースをやめたんです。でも、その先に『マシンを知れば、まだいける、いけそうだ』と思ったので、もう一度やり始めたというかもう一度挑戦したいという気持ちが再燃したのが、一番大きな理由ですね。僕らの年代のドライバーが活躍しているのを見て、どうやったらそこに行けるんだろうと考えたんです。一度レースの世界を諦めているので、今からどうすればいいのかと考えました」
大学院への進学とともに、再びレースへ。まず目標に据えたのは、FIA-F4で勝つことだった。
「一旗揚げたい、FIA-F4でタイトルを獲りたいという思いがありました。そこで勝てば、彼らに追いつくきっかけが作れるんじゃないかと。やっぱり結局、レースが好きでしたね」

毎日オンボードを見る。悔しかった時間も、今につながっている
マシンへの理解を深める作業は、走行を終えた後も続いている。
「自分でデータを見られるので、どこで自分が劣っているのか、オンボードを見返してデータも隅々まで見ています。データ解析は自分の強みだと思っているのでデータから分かることは、自分の中では結構多いと思っています。細かなセクターごとでも、なぜここでチームメイトと差があるのかといった軸でずっと考えています。毎日、オンボードは見ています。それだけは欠かさずやっています。無意識でいつも気付くと寝る前に見ていて、次のレースのコースの予習をしています。『何でここでミスしているんだっけ』と思うと、昔のデータを引っ張り出すんです」
参戦初年度は、予選最高4位、決勝最高5位。表彰台には届かなかった。その悔しさも、今の白崎選手をつくる時間となった。
「1年目は、緊張がすごかったですね。やっとF4に来たという気持ちと、ここで勝ち続けようという、無茶な気持ちもありました。まだ積み上げが必要だった部分があったんです。表彰台に乗れなかったことは悔しかったですし、何で駄目だったのかを探す時間になりました。そういうシーズンがあったからこそ、今につながっていると思います」
「無理はしていいけど、無茶はするな」
経験を重ねた今季は、予選でも決勝でも、自分が冷静であると感じる場面が増えていたという。チャンピオンを決めたオートポリス大会でも、勝って締めくくりたい気持ちと、自分たちのペースを踏まえた判断の間で戦っていた。
「あまり意識をしていなかったのですが気付くと、あまりレース中緊張していないなと思う瞬間がありました。自分自身、結構冷静だなと思えることはありましたね。今回のオートポリスでは、予選も決勝もちょっとペースが足りなかったんです。それでも、どうしても前で勝って締めたいという気持ちはありました。そういうときは欲が出がちなので笑」
そこで思い出したのが、影山正彦監督の言葉だった。
「影山さんがいつも仰っていたのが、『無理はしていいけど、無茶はするな』という言葉です。監督はもちろん、いろいろな方からの言葉があって、レース中でも心を落ち着けられました。それがシーズン中の6連勝にもつながっていると思います」
勝ちたいという思いを持ちながら、状況を見失わない。3年間の経験と周囲から受け取ってきた言葉がレース中の判断を支えていた。
スポンサーから学ぶことは、レースの外にもある
チームの強みについて、白崎選手は経験豊富なメカニックによるマシンの信頼性を挙げた。そしてスポンサーとの関わりについても、多くのことを聞かせてくれた。
「メカニックの皆さんは歴戦の方々なのでマシンに不具合が起きたことはほとんどないです。どんな時もきちんと完走できることは、チームの強みだと思います。それから、支えてくださるスポンサーの皆さんも、お一人お一人がすごい方々なんです!経営者の方が多いので、会社の立ち上げから現在までどのような苦労をされたのか、どのようにして会社を成長してこられてきたのかお話を伺うことがあります。スポンサーの皆様から直接声を掛けてくださる機会が多いことは、本当に心の支えになります」
支援への感謝だけでなく、交流を通して得た学びを自身のこれからにもつなげようとしている。
「スポンサーさんとは本当に色々なお話しをする機会をいただいています。レーシングドライバーの立場としてお話を伺っていても『なるほどな』と思うことがたくさんあります。将来、僕がチームを経営するのか、監督になるのかは今はわからないですが、もしも自分で大きいチームを持てるようになったらこういうことに気を付けなきゃいけないんだなというイメージにもなります。日々スポンサー様から多くのことを学ばせていただいています」
大学で学び、社会人として働いてきた経験も、スポンサーから掛けられる言葉の受け止め方に関わっている。
「大学生の頃だったり、新卒当時の年齢の時にお話を伺っていたら、また感じ方が違ったのかなと思います。これは年の功ですよね。今、僕がこうやって冷静に生きていけるのは、これまでの社会人生活と大学の支えがあって、今はスポンサーさんの支えがあるからです。あとは父親、母親も幼い頃からずっと支えてくれているので本当に感謝の気持ちでいっぱいです」

フォーミュラで、どこまで挑戦できるか
FIA-F4での目標を達成した白崎選手。次に目指す先について聞くと、フォーミュラへの思いを語った。
「箱車(ツーリングカーカテゴリー)にも、もちろん興味はあり挑戦したいのですが、今はフォーミュラカテゴリーでどこまで通用するのか、挑戦していくことが、僕の一番やりたいことですね。車を走らせるのが自分がうまくできることで、その中でもシングルシーターは僕に合っていて、うまく車輌を扱えると感じているカテゴリーがフォーミュラなんです。何より、ダウンフォースの効いている車が好きですね。シングルシーターのトップカテゴリーはF1ですが、トップカテゴリーに到達する過程の中で自分がどこまで通用するかを試してみたいです。」
次のカテゴリーでも、初年度から結果を残したいという気持ちは変わらない。
「僕の中では、FIA-F4は参戦初年度で決着をつけるつもり(チャンピオンを獲得する)でした。初年度にチャンピオンを獲得できなかったとしても2年目、長くても3年目までにはという思いでした。やはり初年度から結果を残すことが、上のカテゴリーにステップアップする推進力になるので。初年度から獲りたいという気持ちは、どのカテゴリーに行っても変わらないです」
仕事と競技を両立する生活から、さらにレースへ力を注ぐには、現実的な課題もある。
「上を目指しながら社会人を続けるのは、なかなか難しいなという思いはもちろんあります。いよいよここまで来ると、ドライバーに絞るのか、どちらかにしないといけなくなってくるので。何とかあがいて、上に行きたいですね」
今欲しいもの、挑戦してみたいこと
今、挑戦してみたいことや欲しいものを尋ねると、少し身近な話題も聞かせてくれた。
「それこそ、やっぱりSIM環境ですね。僕が今、手をかけたいのは自宅のSIM環境です。eスポーツの世界が全く分からないので、そちらはどうなっているんだろうという興味があります。実際に自分がどこまで戦えるんだろうというのも気になりますし。今は一般家庭用のフレームにハンコンが付いていて、バケットシートはなくて、自宅のソファーを動かして使っています。ちょうどいいソファーがあるんですよ(笑)」
現状は仕事や資金面の事情もあり、SIMに多くの時間を割けてはいない。それでも、環境が整えば取り組んでいきたいと話す。
「初めて走るコースでSIMをトレーニングに活用してみたいと思っています。コースを覚えるのもマシンを覚えるのにも最適ですよね。SIMでトレーニングはしていきたいので、時間を作ってやっていきたいですね。ただSIMと実車は100%同じではないことは理解をしてますが、エンジニアリングの進め方を事前に練習することもできると思います」
次世代のジュニアドライバーたちへ「自分の気持ちを大事にしてほしい」
最後に、カートやジュニアカテゴリーでステップアップを目指している選手たちへのメッセージを聞いた。
「レースに挑戦する中でいつもいい時が来るとは限らないと心してレースに取り組むというのが僕のベースにはあります。その中で、僕のように一度レースを諦めることも一つの手ではあります。そこでもう一回やりたいと思えれば、その熱量は倍になってきますし、負けて『もっと頑張るぞ』という気持ちがあるのであれば、自分を信じて挑戦を続けても良いと思います。悩んだ時は、自分の気持ちを外に出してあげることが大事だと思います。自分なりに精いっぱい頑張ってほしいと思います。それが僕から言えることですね」
もちろん、レースから離れることを勧めているわけではない。白崎選手も、その点は丁寧に補足した。
「僕が言うことで『レースから離れなきゃいけない』と受け取られるのは少し怖いですけど。最初に自分の気持ちに従うことが大事です。その後に何を思うかで熱量は変わるはずなので、自分自身の正直な気持ちは大事にした方が良いと思っています」
自身の歩みが、これから挑戦する誰かの後押しになれば。そんな思いも持っている。サーキットで見かけた際には、ぜひ声をかけてほしいとも話してくれた。
「影山監督も、僕と同年代の人や今からレースを始めたいと思っている方たちに常々『今からでも遅くないんだよ』と仰っており、僕自身も同じ境遇の方々の希望になりたいと思っています。レース活動で挑戦する中で悩んだり、困ったり、何か決断に迷った時は僕のことを思い出してもらえたら嬉しいです。サーキットで見かけていただいたらもちろん写真も撮りますし(笑)ぜひ、話しかけていただければ、いつでもウェルカムですので、ぜひ声をかけていただけたらと思います」

これまで支えてくれた人たちへ。
「ずっと応援してきてくださっている方々に、お伝えしたいのはまずは感謝の気持ちです。僕自身そして僕のレース活動を日々支えてくださった方々のサポートが無ければ達成できなかったことですし、僕一人では絶対に達成できませんでした。これからもステップアップのためにしっかり頑張っていきます。一生をかけて、皆様に与えていただいたものを恩返ししていきますので、ぜひこれからも応援よろしくお願いします」
一度レースを離れた時間も、大学で学んだことも、社会人として働いてきた経験も今の走りにつながっている。白崎選手の話には、自分が歩んできた道と支えてくれた人たちへの思いが込められていた。
「マシンのことを知れば、まだまだいける」。そう信じて再び走り始めた白崎選手が、FIA-F4の頂点に立った。その先に続く挑戦にもRACING-DRIVER.JPは注目していきたい。
白崎稜選手のプロフィール・活動情報・サポートに関するお問い合わせは、RACING-DRIVER.JPの白崎選手ドライバー紹介ページをご覧ください。
https://www.racing-driver.jp/ryo-shirasaki/
写真提供:白崎選手


