Racing-Driver.jpRacing-Driver.jp

モータースポーツ業界最新情報

Motorsports Topics

RACING-DRIVER.JP編集部
2026.07.28

カートからF1へ、夢はつながる。Haas F1 TPC in 富士で福住仁嶺と坪井翔が子どもたちに示した道

2026年7月28日(火)、富士スピードウェイでTGR Haas F1 TeamによるTPC(Testing of Previous Cars)の初日が行われた。今回ステアリングを握ったのは、昨年に続き参加する坪井翔選手と、自身初のF1走行に臨んだ福住仁嶺選手。現場では、トヨタ・ガズー・レーシング・ヨーロッパ(TGR-E)副会長の中嶋一貴氏が両選手の走りを見守った。TPCとは、現行シーズン以前のF1マシンを使用して行うテスト走行のこと。昨年は2023年型のVF-23が使用されたが、今回は昨年型のVF-25が持ち込まれた。初日は天候の変化により難しいコンディションとなったが、坪井選手と福住選手はそれぞれの走行プログラムに取り組んだ。なかでも注目を集めたのが、長年F1への思いを抱いてきた福住選手の初走行だ。

坪井翔はハーフウェットでの走行

先にコースへ入った坪井選手の走行時は、路面に水分が残るハーフウェットコンディション。乾き始めた路面をフルウェットタイヤで走る難しい状況となった。

「本当はドライで走れればもちろん良かったですし、ウェットなら、しっかりと濡れた路面をフルウェットタイヤで走れれば良かったです。ただ、タイヤのセット数もあるので、ハーフウェットの路面をフルウェットタイヤで走る状況でした」

坪井選手はマシンへの習熟を進めながら、エンジンマップや各種設定、マシンの挙動を確認した。
「基本的には自分がマシンに慣れることと、ハーフウェットの路面をフルウェットタイヤで走る機会はあまりないので、そこを確認しました。マップなども、おそらく最初は安全マージンを持たせたところからスタートして、よりアグレッシブな方向へ進んでいったのかなと感じています」

路面が乾くにつれてフルウェットタイヤは厳しい状態となり、タイムを比較できる状況ではなかったという。
「タイヤはどんどん厳しくなっていく状況だったので、タイムは正直あまり比較にならないと思います。ただ、まずは走ることができました」

福住仁嶺、念願のF1初走行

福住選手はヨーロッパでGP3やFIA F2を戦い、日本に戻ってからもスーパーフォーミュラやSUPER GTで活躍を続けてきた。しかし、F1マシンをドライブするのは今回が初めてだった。
「本来であれば午前中からドライで走れるかと思っていましたが、朝サーキットへ来るとウェットでした。坪井選手には路面を乾かしていただくような形になってしまいましたが、チームにも僕が走れる時間を考えていただきました。最初はウェットからスタートして、路面が乾いてくるのも早かったので、無事にドライタイヤで何セットか走ることができました」

初めて体感したF1マシンの性能について、福住選手は驚きを口にした。
「やっぱりF1はすごいなと感じました。これまで自分が走ってきたなかで最高峰だったのは、スーパーフォーミュラですが、F1はここまでのレベルなのかということを痛感できました」

「ストレートのパワーが凄まじかった」

走行前は大きなプレッシャーと緊張を感じていたという。
「前日にサーキットへ来た時から、いつもとは違う富士にいるような感じがしました。F1のガレージにいること自体がすごく新鮮でした。乗る前は、プレッシャーや緊張感が正直かなりありました」

事前にはミーティングやシート合わせ、シミュレーター走行を行い、オンボード映像も確認して準備を進めた。実際に走り始めると緊張は消えた一方、これまでのマシンとの違いに驚かされたという。
「不思議と走り出してしまえば、緊張感は全部飛びましたが、自分が思っていた感覚とは大幅に違うマシンだったので、最初の走行では驚くことがたくさんありました。とにかくストレートで感じたパワーが凄まじかったです。」

走行後には、小松礼雄チーム代表にも率直な感想を伝えた。
「僕が『もう、やばいです』と話したことは覚えています。すごくグリップが高いし、パフォーマンスも高い。ストレートも速いです、と伝えました」

また、走行中にはトヨタ自動車会長の豊田章男氏(モリゾウ氏)とも無線で言葉を交わしたという。
「『モリゾウさん、聞こえますか。めちゃくちゃ速いです』と伝えました。そうしたら笑っていただきました」

初走行で見えた課題

F1ではマシンを速く走らせるだけでなく、ステアリング上のスイッチを操作しながら、英語でエンジニアとコミュニケーションを取る必要がある。福住選手は、初走行を通じて今後の課題も見えたと話した。

「コミュニケーションや走らせ方については、まだまだ課題があると思っています。ただ、最初の走行としては順調に進められたと思うので、次の走行では走りだけではなく、セットアップやチームとのコミュニケーションについても取り組んでいきたいです」

走り慣れた富士スピードウェイで経験できたことにも大きな意味があった。
「F1は走るだけではなくて、スイッチ類もたくさんあります。これが仮に初めて乗る機会がフリー走行だったら、まったく余裕がないと思います。後ろを確認しながら、英語でのコミュニケーションも聞かなければいけません。そういう意味でも、すごく良いトレーニングになる環境だと思います」

家族の前でかなえた夢

今回のTPCには、福住選手の両親をはじめとする家族も来場していた。
「家族の前で初めてF1に乗れるということは、特に自分の両親にとっても感動する部分があると思います。ここまで頑張ってきて良かったと、お互いに思える環境だと思うので、本当に感謝しなければいけないと思っています」

福住選手はヨーロッパで戦った時期に、挫折やモチベーションの低下も経験した。
「ヨーロッパでは3年ほど、ホンダの育成ドライバーとして走らせていただきました。そのなかでいろいろな挫折も味わいましたし、モチベーションが下がってしまう時もありました」

日本に戻ってからも国内カテゴリーで走り続け、その積み重ねが今回の機会につながった。
「日本へ戻ってきて、改めて国内で頑張ってきました。周りの環境がすごく良かったことにも感謝しなければいけませんが、自分自身もここまで頑張ってきたからこそ、もらえたチャンスだと思っています」

「若いドライバーへの刺激になってほしい」

福住選手は、自身のF1初走行が若いドライバーへの刺激になってほしいと語った。
「ほかのドライバーや、これから上がっていく若手の子たちに、すごく刺激になってくれればいいなと思います。」

TGRとTGR Haas F1 Teamの取り組みによって、以前は遠く感じていたF1との距離が近づいているとも感じている。
「現実的には難しいと思っていた、ある意味では夢のような存在が、もしかしたら近づいているんじゃないかという期待を感じます。実際にこうして乗せてもらっていることで、ただ乗るだけではなく、いつかは本番の舞台で走りたいと思わせてもらえる環境だと思います」

また、自身の海外経験を、現在ヨーロッパで挑戦する若手にも還元したいという。
「僕も30歳になるので、若手ではなく中堅になってきました。ただ、今もヨーロッパで頑張っている若手がたくさんいます。僕も向こうで経験したことがあるので、その経験を頑張っている若手のために役立てられればいいなと思います」

坪井翔が示した日本からF1へ続く道

海外での経験を持つ福住選手に対し、坪井選手は日本を中心にキャリアを築いてきた。
「僕はヨーロッパや海外での経験がまったくない、今では珍しいタイプのドライバーだと思います。トヨタの育成から、ずっと日本でしかレースをしてきていません」

国内カテゴリーで結果を残し続けたことが、F1マシンを走らせる機会につながった。
「日本でしっかりと結果を出し続ければ、こういうチャンスが来るんだという、一つの証明にはなったと思います。ここからどのように進んでいくかは分かりませんが、日本からでもチャンスをつかめる一つの選択肢ができたのかなと思います」

海外を経験した福住選手と、日本でキャリアを築いた坪井選手。異なる道を歩んできた2人が同じF1マシンを走らせたことは、世界を目指す道が一つではないことを示している。

カートに取り組む子どもたちへ

会場には、レーシングカートに取り組む子どもたちも訪れていた。坪井選手は、実際にF1マシンを見て感じることの大切さを語った。

「今日もカートをやっている子たちが何人か来てくれて、実際に走りを見てもらいました。何も体感していない状態で『夢はF1です』と口にするのと、実際に見て、感じたうえでF1を目指すのとでは、絶対に違うと思います」

日本で活躍するドライバーが、富士スピードウェイでF1マシンを走らせる。子どもたちにとって、F1をより具体的な目標として感じられる機会となった。
「そういう子たちにとっても、一つの目標になる舞台とつながったと思います」

坪井選手は、自分たちもまだ夢を追い続ける立場だと話す。
「僕ら自身も30歳ではありますが、夢は何歳になっても追いかけていいと思います」

中嶋一貴副会長「フラットに評価してもらえる場」

中嶋一貴TGR-E副会長は、TPCの意義について、F1チームに直接走りを見てもらえる点を挙げた。
「トヨタのドライバーがTPCに乗ることで、F1チームの人たちに直接自分の走りを見てもらい、評価してもらえる機会は本当にありがたいことだと思います」

福住選手と坪井選手は異なるキャリアを歩んできたが、同じ場で評価を受けることができる。
「ドライバーのキャリアは、みんなバラバラだと思います。坪井は本人が話したように、ずっと日本で走ってきました。福住は海外での経験があって、日本へ戻ってきた。それぞれのキャリアが違っても、こうしてフラットに評価していただける場があります」

その機会は、後に続く若手やカートドライバーにもつながっている。
「この2人だけではなく、その後に続く若いドライバーや、カートに取り組んでいる子どもたちにも、すごく良いメッセージを送ってもらえていると思います」

中嶋一貴副会長が見た福住仁嶺の初走行

中嶋副会長は、福住選手の実力を知っているからこそ、今回の走りに大きな驚きはなかったという。
「彼の実力は十分に知っているつもりです。ある意味では、これくらい走るだろうと思っていた通りだったのではないかと思います」

福住選手がドライタイヤへ交換した段階でも、路面は難しい状態にあった。それでも、富士を熟知する福住選手への信頼があった。
「外から見ていると、本当に知らないドライバーだったら、少し不安になるようなコンディションだったと思います。ただ、富士をよく知っているドライバーということで、自信を持って任せられる信頼感が最初からありました。それにきちんと応えてくれたと思います」

初日だけで細かなパフォーマンスを評価することは難しいものの、日本のトップドライバーの実力を示す走行になった。
「厳しい言い方をすれば、これくらいは走るだろうと、みんなが思っていたと思います。ただ逆に言えば、日本でしっかり活躍しているドライバーは、これくらい走れるんだということを見せられた一日だったのではないかと思います」

ドライバーが自ら成長できる環境を

中嶋副会長は、TPCの先にどのようなチャンスがあるかについては明言しなかったが、今後も可能な限りサポートしていく考えを示した。
「ここから先がどうなるかは何とも言えませんが、こういう機会があるなかで、自分たちもできる限りサポートしていきたいと思っています」

一方で、ただチャンスを与えるだけではなく、ドライバーが自ら成長できる環境を整えることが重要だと語る。
「サポートすることだけがすべてではないと思っています。ドライバーが自分たちの力で成長していける環境をつくることが理想だと思います」

挑戦を続けた先につかんだF1への一歩

海外で挑戦し、日本へ戻ってからも走り続けた福住仁嶺選手。日本国内で結果を積み重ねてきた坪井翔選手。異なる道を歩んできた2人が、同じ富士スピードウェイでF1マシンを走らせた。福住選手にとって、今回の走行は長年追い続けてきた夢がかなった瞬間だった。しかし、本人が見据えているのは、その先だ。

「ただ乗るだけではなく、いつかは本番の舞台で」
そして、2人の走りを間近で見たカートドライバーや子どもたちにとっても、F1を身近な目標として感じる機会となった。

「夢は何歳になっても追いかけていい」

TGR Haas F1 TeamのTPCは、坪井選手と福住選手に貴重な経験をもたらすとともに、未来のF1ドライバーを目指す子どもたちにも新たな可能性を示した。