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RACING-DRIVER.JP編集部
2026.08.20

【独占取材】三村壮太郎、初の四輪レースへ。「10年遅いと言われても、一度は出てみたかった」挑戦の先にある次世代への想い

長年、日本のレーシングカートの最高峰カテゴリーでトップ争いを繰り広げてきた三村壮太郎選手がついに四輪レースへ挑戦する。今回、三村選手が参戦するのはトヨタ86とスバルBR Zによるワンメイクレース TOYOTA GAZOO RACING GR86/BRZ Cupのクラブマンシリーズ。RACING-DRIVER.JPは、その初参戦を控えた三村選手に独占インタビューを行った。

なぜ今、四輪なのか。長年カートで培った経験はどこまで通用するのか。そして、この挑戦の先に何を見ているのか。「自分がプロになるルートからはもう外れている」と冷静に現在地を語る三村選手だが、その言葉の端々からは、新しいカテゴリーへの純粋な高揚感と"レーシングドライバー"としての強い探究心が伝わってきた。

「一度は四輪に乗ってみたい」という思いは、ずっとあった

――今回、初めて四輪レースに参戦することになりました。そもそも、この話はどのように始まったのでしょうか。
三村選手:昨年、全日本カート選手権のEV部門でチャンピオンを獲得することができました。チャンピオンには翌年のFIA-F4への参戦スカラシップが用意されていたのですが、年齢的なこともあり、トムスさんと話し合いの末、辞退させていただきました。そんな中、トムスさんから「今後どういうことをしたいですか」と聞かれたときに箱車のレースに興味があるので、何か乗れる機会があれば嬉しいですという話をしていました。正直そのときは、GT4やGT3に1日テストで乗せてもらえたらとても嬉しいなと思っていたくらいでレースに出られるとは思っていませんでした。トムスさんからは「何か力になれることがあれば」とずっと言っていただいていた中で今回のGR86/BRZ Cupの出場オファーをいただきました。

――「四輪、特に箱車に乗ってみたい」という希望から今回につながった。
三村選手:そうですね。今の自分が20代前半だったら、フォーミュラに乗りたいと言っていたかもしれません。でも30代になって今からフォーミュラに乗ったところでという思いも正直あります。どうせ乗るなら箱車がいい。それは今の僕の仕事である市販車用タイヤのテストドライバーの仕事にもつながる可能性もあると思っているからです。

「縁がないと思っていた」ついに決まった四輪レース

――実際に「レースに出ます」と決まったときは、どんな気持ちでしたか。
三村選手:四輪のレースには、もう縁がないと思っていたので「やっと今、チャンスが来たか」とも正直思いました(笑)。たぶんみんなから「10年遅い」って言われるんだろうなとも思いましたけど、一度は出てみたいと思っていたので、純粋に楽しみですね。

――感慨深さもありますか。
三村選手:ありますね。四輪に乗らなかったことを後悔していた時期もあったので。

初めて本格的に走った富士。「一つのコーナーごとに課題が出てくる」

三村選手にとって、GR86/BRZ Cupのカップカーを本格的にドライブするのは今回が初めて。富士スピードウェイ自体も、過去にわずかな走行経験があるだけ。本格的に周回を重ねるのは今回が初めてに近い。
――初めて86のカップカーをしっかり走らせてみて、どうでしたか。
三村選手:難しいですね。グリップ感は高いと思いました。ただ、タイヤの使い方が難しい。タレるのも早く感じましたし、どこまで使えるのかというところも含めて、まだ全然分かっていないです。

――富士をしっかり走り込めたのも今回が初めてに近いですよね。
三村選手:そうですね。前に走ったときは15分1本くらいで、しかも最初の8分くらいは前が詰まっていて、ちゃんと走れたのは最後の5分くらいでした。だから今回は初めて、「富士ってこうやって攻めるんだな」という感覚が少し分かりました。1つのコーナーごとに「こうしておけばよかった」「次はこうしよう」と考えているうちに30分が終わっちゃうんですよ。そこは楽しいですよね。カートにももちろん課題はありますけど、長くやっている分、ある程度煮詰まってきている部分もあります。四輪は今の自分に課題がいっぱいあるので、それが面白いです。

「車を壊したくない」が、意図的なアンダーステアを作ってしまう

――初めての走行で特に難しかったと感じたところは?
三村選手:車の動かし方ですね。カートとはハンドルの切り方も違います。車載を見たら、自分でも「めちゃくちゃハンドル切ってるな」と思いました。オーバーステアが怖いというより、車を壊したくないという意識があって、無意識にというか、意図的にアンダーステアを作るような走りになっていました。2本目の走行では少し直せたと思います。やっぱり、速く走るための技術はカートとは違いますね。

――操作そのものも、カートとはかなり違いますか?
三村選手:そうですね。シフト操作もありますし。普段の仕事でマニュアル車に乗ったり、シフトダウンをしたりする機会があるので、そういう意味ではやっていてよかったと思いました。ハンドルの切り方もそうですけど、普通の車を操作する経験があることは多少つながっています。ただ、「操作できること」と「速く走れること」は全然別なので。そこは難しいです。

カートの経験が生きるのは「速度感」と「滑りへの反応」

一方で、長年のカート経験が明確に生きている部分もあったという。
――逆に、カートを長くやってきたからこそ生きた部分はありましたか。
三村選手:やっぱりスピード感ですね。それと、リアが滑ったときの反応は、カートをやっている人間のほうが速いと思います速度に対する感覚も、カートをやっている人間の強みだと思います。

――四輪そのものに対する怖さは?
三村選手:ブレーキですかね。シミュレーターとイメージ自体はかなり近いんですけど、実車にはブレーキングの恐怖感がある。それはシムとは違います。富士だと僕は1コーナーが怖いですね。


三村選手のコーチングを務めるのはHC GALLERYでファクトリーディレクターを務める傍らスーパー耐久ST-4クラスに出場する島拓海氏

シミュレーターは2021年から。「VRをもらったのが沼の始まり」

三村選手は自宅にもレーシングシミュレーター環境を持つ。始めたきっかけは、意外なものだった。

――自宅のシミュレーターは、どういう経緯で作ったのですか?
三村選手:2021年くらいですね。コロナの途中くらい。妻がVRのゴーグルをプレゼントしてくれたんですけど「これ何に使おうかな」と思って。レースゲームに合うんじゃないかと思ってiRacingを始めました。それが沼への一歩目でした(笑)。最初はG29でやっていて、ダイレクトドライブのFanatecに切り替えて、全日本カートで当時一緒に走っていた菅波冬悟選手などとよく一緒に走っていました。電話しながら同じレースに出たりして、楽しかったですよ。

――最近は自宅シムを使っていますか。
三村選手:いや、使ってないんですよ。パソコンの調子が悪くなってしまって。それでやらなくなってしまいました。最近、カートで長年メカニックを務めていただいた方にも「シミュレーターやってないから遅くなったんじゃないの」って冗談を言われました(笑)。またパソコンを買ったらきっとハマると思いますよ。

スポーツ走行後、汗も引かぬ状態でオンボード映像を確認し、すぐにシミュレーターに乗り込む三村選手。コンマ1秒を削ることへの貪欲さは凄まじいものがある

初戦の目標は「まず予選落ちしない。そしてトップ10」

三村選手の初戦に向けた準備期間は決して長くない。それでも、目標は明確だった。

――今回のレースで、具体的な目標はありますか。
三村選手:まずは予選突破ですね。最低限、予選落ちはしたくないです。そのうえで欲を言えば、トップ10には入りたいです。ちゃんと上位でレースをしたいと思っています。ただ、練習期間がほとんどないので、現実的に考えたらそんなに高望みはできません。

――それでも結果は求めたい。
三村選手:そうですね。あまりに遅かったら「カートってあんまり意味ないんだね」って言われちゃうじゃないですか(笑)。それだけは避けたいです。

「このカテゴリーをしっかりやってみたい」

今回の参戦を、三村選手は単なる一度きりの体験とは考えていない。初走行を終えた時点ですでに、GR86/BRZ Cupというカテゴリーそのものへの興味が膨らんでいる。
――今回の参戦の先については、どう考えていますか。
三村選手:このカテゴリーはしっかりやってみたいなと思っています。初戦で遅かったら次はないと思っているので、そこは結果を求めないといけない。そのうえで、もっと経験を積みたいですね。

――さらにその先として一度出てみたいカテゴリーはありますか。
三村選手:一度はスーパー耐久に出てみたいですね。あとは、一生に一回くらいスーパーGTの300クラスにも出てみたいです(笑)。もちろん、まずは今回のレースです。

四輪挑戦は「自分のため」だけではない

今回の挑戦には、三村選手自身の経験以上の意味がある。現在もカートを主戦場とし、ドライバーの指導にも携わる三村選手にとって、カートから四輪への違いを自身の体験として理解することは、次世代を育てるうえでも大きな意味を持つという。

――今回の四輪経験を、今後どう生かしていきたいですか。
三村選手:やっぱり僕の軸はカートにありますこれからカートからフォーミュラや箱車に上がっていく子たちに、「カートと四輪ではここが違う。でも、ここは一緒だから、カートでやってきたことが生きる」というのを伝えられるようにしたいです。カートをやってきたことの何が四輪につながるのか。それを自分自身でもちゃんと理解したい。今回こうして出させてもらえることで、そういう部分にもつながると思っています

――カートはプロを目指す若いドライバーにとって、ステップアップの入口でもあります。
三村選手:全日本カートやROTAX MAXで今走っている子たちは、みんなプロになりたくてカートをやっていると思うんです。僕の仕事もそういう子たちに関わることが多いので、「四輪に行ったときに活きるのはこういうことだよ」というものを、カート時代から意識させられたらいいですよね。今はシミュレーターに重きを置いている子もいるし、僕自身も四輪へのつながりという意味ではシミュレーターはかなり大きいと思っています。ただ、カートにはカートでしか身につかないものがある。そこをどう見極めるのか。そのためにも、自分が四輪を経験する意味はあると思っています

「プロになる」というゴールではなく、“求められること”を続けてきた

三村選手自身は、自らのキャリアについて「プロドライバーになる」という分かりやすいゴールを設定しているわけではない。そのスタンスは、ここ10年ほど変わっていないという。

――今後、レーシングドライバーとしてどんな未来を描いていますか。
三村選手:難しいですね。結局、自分がプロになるというルートからはもう外れているわけで。それはここ10年くらいずっとそうなんです。だから、需要があるところで求められたことをする。それをやっていると、また何か仕事が来る。ずっとそういう感じでやってきました。「こうなりたい」というゴールをあまり持っていなくて、今求められていることをちゃんとこなして、できることを増やしていく。それが自然になっています。プロを目指していない以上、「何を目指していますか」と聞かれると難しいんですよね。ただ、こうやって四輪にも乗るようになって、カートだけではなく、四輪の世界でも役に立てれば嬉しいなと思っています。

若いドライバーへ。「惰性で乗らないこと」

最後に、長年カートの第一線を走り続けてきた三村選手に、若いドライバーへ伝えたいことを聞いた。返ってきたのは、極めてシンプルな言葉だった。

――今カートに取り組んでいる若いドライバーに、伝えたいことはありますか。
三村選手:そんな偉そうなことを言うタイプじゃないですけど(笑)。でも、惰性で乗らないことですね。今、何のためにこのカートに乗っているのか。勝つためには何が必要なのか。それを自分で考えて乗ることが大事だと思います。とりあえず、「日々、毎セッション、毎ラップとにかく徹底的に考えてください!」としか言えないですね。


「10年遅い」と笑いながらも、初めて本格的に四輪と向き合った三村選手の表情は楽しそうだった。長年カートを極めてきたからこそ、新たに突きつけられる課題の一つひとつが新鮮に映る。そして、その経験を自分の結果だけで終わらせず、次の世代へ還元しようとしていることも、今回の挑戦を象徴している。まず目指すのは、予選突破。そしてトップ10。三村壮太郎選手にとって初めてとなる四輪レースで、カートで培ってきた経験はどこまで通用するのか。

初陣は、9月5日、6日の富士大会
三村壮太郎の新たな戦いが始まる。

■トムス プレスリリース
全日本カート選手権EV部門チャンピオン・三村壮太郎選手 「TOYOTA GAZOO Racing GR86/BRZ Cup」へ参戦決定
https://www.tomsracing.co.jp/company/news/19057/

■三村壮太郎 選手 過去インタビュー記事
【独占取材】三村壮太郎選手に聞く!OKとEVの二刀流の活躍の秘訣とレースに懸ける熱い想い
https://www.racing-driver.jp/news/4401/

三村壮太郎選手 ショートインタビュー 2025 全日本カート選手権 EV部門シリーズチャンピオン獲得の思い
https://www.racing-driver.jp/news/6793/