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RACING-DRIVER.JP編集部
2025.07.25

【独占取材】三村壮太郎選手に聞く!OKとEVの二刀流の活躍の秘訣とレースに懸ける熱い想い

ホビーでカートを楽しまれる方からステップアップを目指しカートに熱中するジュニアドライバー、そしてシニア・ジェントルマンドライバーの方までレーシングカートに携わる方なら一度はこの名前を目にしたことはあるのではないだろうか。全日本カート選手権のOK部門そしてEV部門で常に上位争いを繰り広げるレーシングドライバー 三村 壮太郎 選手だ。そのレース歴はなんと約30年という。全日本カート選手権の最高峰カテゴリーに参戦し15年、複数回勝利も記録し、過去にはチャンピオン争いにも幾度も絡む活躍を果たしてきたドライバーだ。今回、RACING-DRIVER.JPでは三村選手に単独取材を敢行。三村選手のレースとの出会いからレースキャリアにおけるターニングポイント、自身のドライビングの強みや長年に渡りトップで活躍し続ける秘訣を伺う中でレースにかける並々ならぬ情熱が見えてきた。ジュニアドライバーの方へのメッセージも最後に頂戴しましたので、特にステップアップを目指しカートに取り組むジュニアドライバーの方には必見!! どうぞ、最後までお読みください。

—カートとの出会いは?
三村 壮太郎 氏(以下 三村氏):「小学校1年生の頃に父が車屋さんで見つけたカートを見て、“乗ってみるか?”と誘われ記憶が定かでないのですが、乗ってみたいと言ったそうです。最初はキッズカートからのスタートだったのですが、初めて乗った時から楽しかったようでそのままレースにも出るようになりました。途中からただ乗るだけでは楽しくなくなり、レースに勝たないとつまらないというマインドになり、それを繰り返して今があるといった感じです。」

—なぜカートに夢中になったのか?
小学校の頃は野球、中学校の頃はソフトテニスと幼少期は他のスポーツもやっていたという三村選手。なぜカートに熱中するようになったか理由を聞くと
三村氏:「元々父からはカートだけでなく様々なスポーツに触れてはどうかという助言もあり、小中と球技をやってました。ただずっとカートは継続してやっていて自分にとっての基軸はずっとカートのレースありきでした。一時は野球に集中しようかなと強く思った時期もあったのですが、やはりレースというハッキリとした“競争”が好きでカートを選んだのだと思います。野球もテニスも競走はあるけれど、レースの競走は関わる人数も違うし、本当にレースが好きだったなと今振り返っても思います。」

—普段はどんなことをしているのですか?
三村氏:「タイヤメーカーで市販車タイヤのテストドライバーをやっています。転がり抵抗の試験やブレーキの制動試験、時にはスポーツタイヤの開発することもあり、コースでの実車試験なども行なっています。全国の試験場に行き、低速域から高速域まで軽自動車からスポーツカーまで幅広くタイヤテストの仕事をしています。楕円状のコースを走行したり、路面に水を撒いてウェット路面での走行試験などをしています。」

—レースキャリアにおけるターニングポイントは?
三村氏:「2008年のROTAX MAXでチャンピオンを獲得し、グランドファイナルに出場した経験は大きなターニングポイントになりました。僕の世代は中山雄一選手や佐々木大樹選手がいて、自分のことを比較的速いドライバーだとは思っていたのですが、ピカイチの存在ではないと思っていて、あまりそこまで自分自身に強い自信をもっていなかった中で、当時は純粋に競走・レースが好きという気持ちがある種、心の支えでした。そんな中でMAXのチャンピオンを取り、初めて世界戦に挑戦した時に日本代表として選ばれたドライバーの中で結果には結びつかなかったものの自分が一番速かったという経験が自分自身のことを認られるようになったきっかけになり、よし!俺はレースの世界でやっていくんだと強く思えた重要な出来事だったと思います。その後2012年に全日本カートのKF1クラスでチャンピオンを取り逃したり、タイヤメーカーに入りずっとレースタイヤの開発ドライバーになるという経験もしましたが、今振り返っても一番レースにおいてターニングにポイントになったのは2008年でした。ただその時に大きな後悔もあり、自分自身のレースの活動資金を理由に早めに四輪へのステップアップを諦めてしまったこと。これは人生において1番後悔しています。今、若いドライバーで当時の自分と近い境遇にいるドライバーには何でも良いのでステップアップの為のオーディションなどにトライして欲しいと思いますし、アドバイスを求められた時はとにかく挑戦・行動することの大切さを伝えています。」

—全日本EVとOK二刀流の活躍の背景
国内のレーシングカートレースの最高峰カテゴリーとして全日本カート選手権のOK部門とEV部門が存在する。OKは125ccの所謂2ストロークガソリンエンジンによるレースでEVは文字通り、電気(モーター)を動力したレース。OKとEVとでは動力が異なる他、最低重量もOKが150kgに対し、EVは195kgと車重が大きく異なる(ともにドライバーを含む)。当然、それぞれのカテゴリーに合わせたドライビングが求められ、過去には一方のカテゴリーへの順応に苦戦するドライバーを居た。そのような中、両カテゴリーで勝利経験を持つ三村選手にEVとOKのフィーリングの違いなどを聞いた。
三村氏:「
やはりOKとEVカテゴリーの決定的な違いは車重。カートは元々軽い乗り物ですけど、この45kgという車重差は大きいので別の乗り物という感覚です。乗り方で一番気をつけなきゃいけないのは、OKでいうと基本的には多少滑ってでもアクセルを踏んでスピード・トラクション重視で走らせるカテゴリー。それに対して、EVは全く真逆。とにかく一回滑り始めると車重の関係で横へのスライドが止まらない。なのでとにかく滑らせないようにグリップを意識して縦に転がすイメージ。とにかくタイヤを縦に使うことをしっかり意識する必要があります。OKは人間のスピード感など感性やスライドコントロールの技術が大事で、EVはより頭を使う必要があり、普段乗る機会が少ない車重が重いカートをどうやって速く走らせるかを突き詰めて考える必要があります。

—速く走るための秘訣 “仮説検証・分析”
現在カートレースに参戦する中でステップアップの過程で壁に直面したり、伸び止んでいるドライバーの方も多いのではないのだろうか。そんないわゆる、伸び悩みに対し、速く走るための秘訣を三村氏に聞くと「普段とは違うカテゴリーのカートレースに挑戦し伸び悩んだ時には、なぜ普段の乗り方では通用しないのだろうと原因の分析と仮説を立てて考えることが大事です。EVを例にすると車重が重いカートをどのようにしたら速く走らせることができるかを徹底的に考える。去年自分もEV部門ではイゴール・フラガ選手や小高一斗選手などのプロドライバーに対し、苦戦したこともありました。自分の中ではカートをスムーズに運転することが出来ていると思っていたのですが、プロドライバーは自分よりも更にスムーズな運転をしていました。分析すると彼らは、車重の重さを頭でも体でも理解して走り方を変えていて、自分も理解しているつもりではありましたがアジャストが足りていなかったと気付きました。今、様々なカートカテゴリーに挑戦し、苦戦しているドライバーの方にはうまく走れていない原因の分析、仮説を立て検証することをぜひトライしてみて欲しいです。走っていて感覚としてしっくりこないなと感じた時には、何が起きているかを徹底的に追求して考えることが大事です。自分自身で分析すること、自分を客観視することも大事ですし、何が足りないのだろうというヒントを外から見ている(メカニックやコーチ)方から自分の走りを見てどう思うか意見を聞き、答えを自分で導くことが大切です。速いドライバーに自分で直接聞くのもありですし、速いドライバーと一緒に走って走りを盗むのも一つ。ただ情報収集は大事ですが、しっかりと自分の中でアイデアを整理し、あくまで自分を客観視し、走りを形にすることが大切です。まず自己分析→ヒントをもらう→答えを導く。自分もROTAX MAXのカテゴリーをメインで戦っていて、スペシャルタイヤ時代の全日本カート選手権に挑戦した際にタイヤのグリップ力が全く違うことで同じカートでも枠組みが全く異なり、これまでの乗り方では通用しないと思った時にこのような仮説検証の癖をつけれるようになりました。ROTAX MAXやKTのレースからOKやEVに挑戦した場合、同じカートという括りでも全く違う乗り物といっても過言ではないので、今の乗り方ではダメなんだと気付いた時は徹底的な仮説検証が大事です。」と答えました。

K SPEED WINより全日本カート選手権 OK部門に出場する三村壮太郎選手の様子

ITOCHU ENEX WECARS TEAM IMPULより全日本カート選手権 EV部門に出場する三村壮太郎選手の様子

ここまで話を聞く中で全日本カート選手権OK部門、EV部門、ROTAX MAXなどカートには様々なカテゴリーが存在するが、そのすべてのカテゴリーで上位で戦うことは可能なのだろうか。三村選手に聞くと「全然可能だと思います。ROTAX MAXで速いドライバーで仮にEV部門で苦戦したとしても適応能力が高いドライバーはすぐに次戦以降上位争い絡んでいる。不可能ではないです。」と語りました。

—今でも最前線で活躍できている秘訣・レースをする上でモチベーションになっていることは?
三村氏:「モチベーションにおいては勝ち負け・競走が好きというのが一番。絶対に負けたくないという気持ちがあるので、自分よりも速いドライバーを見つけると研究するということを今の年齢になってもやれていることがレースを継続できている一つの要因かなと思っています。
自分がなぜ今もレースをしているかというと、まだ競技者として通用していることも大きいと思います。年齢を重ねる中で長くやってきたカート業界の中で自分なりの貢献の仕方や役割を考えると、若手にとっては自分に勝てないと上にはいけない存在でいることやドライビングの部分でお手本として存在することで貢献していきたいと思っています。もちろんカートが今でも好きだという気持ちも大きいです。加えるとこの年齢になってもこの走らせ方が良かったなど発見も沢山あり、好奇心がもの凄くあります。どんどん新しい世代が入ってくることで自分たちの世代とは全く違う走らせ方を目にするのも興味深いです。自分の乗り方は常にアップデートする心構えなので速いドライバーが居たら取り入れることもあり、速く走れた時はやっぱり楽しい。あとは勝つために何をするかという工程そのものがやっぱり楽しいです。勝てなくてもいいやと思っていたらもうレースをやっていないと思うし、今でも競争が好き=カートが好きです。」

—若手ドライバーに伝えたいこと
三村氏:「プロを目指すのであれば、追求することを絶対にやめないこと。これくらいのレベルでいいやと妥協するのではなく、自分の走行スタイルと違うドライバーが速かった時などは徹底的に追求することが大事です。“自分は速い”と自信をもつこともレースをする上では大切ですが、自分より速いドライバーが現れた時はそこから盗もう、取り入れようという姿勢が大切です。好奇心を持って走ること、常に改善しようという思いがスキルアップにつながると思います。走り以外の部分では、学生時代は自分もSNSなどで積極的に発信をしていて、その投稿や発信を見てチャンスやレース参戦のご縁をいただいたこともあり、今振り返っても情報発信をすることは大事だったなと思っています。自分も全日本カート選手権を始めとしてカート業界に長く関わらせていただいているので、今後はまた少しずつ情報発信をすることで貢献していきたいと思っています。」


—今後のレース活動の展望
三村氏:「やれる限りカートを続けていきたいし、全日本カテゴリーのチャンピオンの獲得経験がないので1回くらいは取らなければいけないと思っています。加えて、やはりレースが好きなのでこれまで経験はないですが、チャンスがあれば四輪のレースには何でも挑戦してみたいと思っています。」

—三村選手にとって“レース”とは
三村氏:「レースで人生において多くの学びを得ていると思います。今の仕事にも間違えなくレースをやっていなかったら出会ってなかったと思います。そういう意味ではレースからずっと学んできている。挫折も沢山ありましたが、レースを続けてきて感じるのは“学び”です。」

三村選手のインタビューを受ける中で、鋭い眼差しの中にレース同様のパッションの強さを感じた。レースに対する熱い思いの裏には絶対に勝負に勝つという目的を達成する為の徹底的な自己分析があり、これまでに多くの経験を積んできたにも関わらず、今でも常に学び、進化する為に実践し続けるストイックさを感じた。
今、プロのレーサーを目指し懸命に取り組む全てのドライバーの方が三村選手のようにどんな時も自分自身や走りを冷静且つ徹底的に分析をし、何よりレースに対し熱い気持ちを持ち邁進した先に
明るい未来が繋がることを切に祈るばかりだ。

三村壮太郎選手 RACING-DRIVER.JPページ
https://www.racing-driver.jp/sotaro-mimura/