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RACING-DRIVER.JP編集部
2025.07.04

TOM'S 谷本 勲代表 独占インタビュー後編 少子化時代のモータースポーツ新戦略 ー「習い事化」と「体験」で裾野拡大へ

TOM’S谷本代表への独占インタビューの後編。後編では少子化時代のモータースポーツの競技人口減少の現状打破に向けたTOM'Sの思いや取り組み、今後の戦略についてお伝えいたします。

—少子化時代におけるTOM'Sのモータースポーツ新戦略
谷本 勲 氏(以下 谷本氏):モータースポーツ業界全体にとっても少子化は大きな問題であり、モータースポーツをやりたい人も減ってしまっているのが実情。やはり、これは業界全体をあげて取り組まなければならない課題であると我々は認識している。唯一の救いは、子ども達にカートに乗ってもらった時にこれだけ純粋に「楽しい」と言ってもらえること。そのようなスポーツやアクティビティが他にどれだけあるかというカートは群を抜いているのではないかと私は思う。ただ、競技としての魅力は十分あるものの、競技人口が増えていないということはモータースポーツの競技参加の魅力をしっかりと伝えられていないと業界全体として受け止めなければならない。そういった意味でカートそしてモータースポーツの魅力を伝えるには、まずはカートに触れる・体験する機会を創出する必要があると感じ、まず我々が取り組んだのはキッズのEVカートを開発し全国出張イベントの巡業・キャラバンを実施すること。EVにこだわったのは、初めてカートに触れる子どもにとって音と振動は大きな問題でエンジンカートでは3人に1人が大きな音や振動が怖いという光景を見てきた。それがEVカートになると恐怖心や抵抗が少なくとにかく子ども達からの反応が良かった。親御さんにもう1回乗りたいもう1回乗りたいと言っている光景があった。そんな光景を見て、都市型のEVカートの可能性は間違えないと思い、シティサーキットを開設しました。

出張型のキッズカートイベントでは多くの子どもたちがカートに熱狂するという。写真はモータースポーツジャパン2025より

—習い事としての“カート”という選択肢
東京お台場という都心に位置するシティサーキット。その近隣にはキッズ・ジュニアの水泳教室などの子どもの習い事が多くあるが、どのクラスも定員いっぱいでキャンセル待ちの状況だと谷本氏は語る。
谷本氏:「何故、水泳教室がキャンセル待ち・定員がいっぱいになるか紐解くと、そこには親御さんとしてもお子さんに水泳教室に通わせたいという思いや理由があるのではないかと分析している。カラダの発達や健康に良いのではという思いや将来泳げた方が良いのではというどちらかというと親御さんの思いが強いのではと推測している。水泳に加えて、東京都心ではお子さんの習い事として空手も人気だと理解している。そこには、身体が強くなる・礼儀礼節を大切にできるようにという思いで通わせているご家庭も多いはず。そんな中で子どもへの感動体験の提供という意味でカートという体験型のコンテンツが過去のイベントの成功体験からも我々としても自信を持っているので、子ども向けのアクティビティとしてシティサーキットを軸に今後、積極展開していきたいと思っている。具体的には、単発の体験イベントだけではなく、日々の習い事としてEVカートを提供するのは非常にポテンシャルがあるのではないかと思っている。何よりこれだけカートに乗りたい!という子ども達の声があるので、子どもにとってカートはハマる要素は満載で習い事として飛び抜けた存在になり得る可能性があると感じている。次のステップとしては、親御さんが検討する子どもの習い事の選択肢の中にカートを入れてもらえるようにアプローチしていきたい。もちろんモータースポーツは危険なスポーツなのでスポーツマンシップをしっかりと理解してもらわなければならないし、競技へ参加するには礼儀礼節をしっかり覚えなければならない。そしてお金も掛かるスポーツでもあるので親御さんの支援がないと続けることができない。ご両親にしっかり感謝をして稽古・習い事に励むことが大切だということも合わせて伝えていきたいと思っている。」

また習い事という観点でカートが子どもたちにもたらすものとして谷本氏は「カートの操縦は、車体の荷重や挙動の感覚を磨くだけでなく集中力や判断力を養い、向上させることもできるので将来、お子さんが免許を取得したときの乗用車の運転技術や安全運転にも繋がると思っている。そういった点でも親御さんに対し、幼少期からカートに触れることでお子さんが将来免許を取得した時点で運転の能力を高い状態にできるポテンシャルを秘めていること、大人になった時に運転すること自体が心配・不安という状態を無くせるという状態を作ってあげたい。」と語った。

今後の習い事化の全国展開の方針として谷本氏は、「先日発足された日本カート協会とも提携しながらカリキュラムとしてカートコースとも連携・支援する形で全国のカートコースで習い事として体験できるような構想も考えたいと思っている。カートを始めるにもカートが高額で始められないという実態もあるので、子ども向けのレンタルカートを保有していないレーシングカートコースにもEVカートの車両を含めたハードウェアの導入・支援金なども含めサポートし安価でカートが乗れる環境を作っていきたい。」と答えた。

—モータースポーツの魅力を広める鍵は“メディア”と“体験”
谷本氏:90年代のカートブームにはやはり地上波テレビ放送を主体としたメディアの存在が大きかったと思う。F1ブームでフジテレビの地上波でF1を放送し日本人選手も多く活躍し人々が熱狂していた時代。F1ブームからF1を模したバラエティ番組が誕生したりとカートコースの方に当時のお話を伺っても今の10倍はカートコースに人が来ていたとお聞きする。

先日シティサーキットで男性アイドルグループのTV番組収録が行われ、地上波やアイドルの方の露出効果は絶大で最近は夕方以降、女性だけのグループがカートに乗りにいらっしゃることが増えた。来場理由を伺うとアイドルグループのメンバーの方が乗ったカートに乗れると思ってきた!と仰っていて、シティサーキットがアイドルファンのある種、聖地化し始めている。これまで来場いただいていたお客様の層とは明らかに客層が変わりつつある。そういった声や反響を実際に目にして、やはり我々もTVメディア、アイドルの方の力は大きいなと改めて実感した。番組を機にメディアからの取材も増え毎週のようにいただいている。都市部に構えて我々としてもプロモーションを頑張っているつもりでもTV番組を見て知ったという声をいただくようになり、やはり我々としてまずはカートが楽しいものだと認知・体験いただくことが改めて大切だと実感した。またその先の究極の形であるレーシングドライバーというのはすごいということを世の中に啓蒙させ出来れば、カートをやってみたいという子は増えると確信している。その訴求方法としてこれまでTVや芸能人の方が担ってくれた役割を今の時代ではどうやったら情報を拡散できるかを日々模索しているところです。

走ることで学ぶ、感じる、変わる──“体験型モータースポーツ”の可能性
谷本氏:もっとモータースポーツに触れられる機会を作れないかと我々も模索する中で、一般の方からはフォーミュラカーを気軽に体験できる機会はないと思われていたのでフォーミュラカーを身近に感じていただくためのF4車両の体験型イベント「トムス フォーミュラーカレッジ」を開催している。ありがたいことに開催日を発表すると毎回すぐに満枠をいただいている。年齢層も幅広く、初めてフォーミュラカーに乗る方も多く、モータースポーツをやっている方のほうが少ない印象。これだけフォーミュラーカレッジを知っていただけたのはインフルエンサーの存在が大きかった。実業家やタレントさんに加えてKYOJO CUPに出場するバートン・ハナ選手に体験いただき拡散いただいたことで気軽にフォーミュラカーに乗車体験できるコンテンツとしてブームになった。ハナ選手は海外のファンも多く、訪日外国人の方にも多くご利用いただいている。今、これだけ世界的にはF1ブームがありながらもF1と日本のモータースポーツの人気は繋がっていないと我々は感じている。F1と日本のモータースポーツの人気が昔はイコールであったが、そういったブームを再びどのようにして作れるかが業界全体、そして私たちの課題だと感じている。

先日の日本カート協会の発足会見でも山本尚貴チェアマンが申していた通り、モータースポーツがシンプルに楽しいということだけでなく、カートを体験することで学びの機会が沢山あること、成長の過程で人間形成において凄く大きな影響を及ぼす存在だと私も思っている。業界側・提供するサイドとしては一層そのような機会をカリキュラムとして提供していきたい。

—未来への展望
今後の事業展開として谷本代表は2つを挙げた。「一つはEVカートのシム版レースの開催。シムとリアルの垣根がなくなり、スキルアップという意味でも、もっと活かせることがあると思っている。SIMの競技参加者も四輪にステップアップしたいと思っているが上手く四輪カテゴリーへのステップアップに繋がっていないと感じるのでそういった機会を我々が作っていきたい。もう1つはシティサーキットのような都市型のサーキットを全国に今後10年以内に100拠点作ることを目指している。とにかく全国でカートに気軽に乗れる拠点を作っていきたい。先日は自動車教習所とタイアップし、カートの体験イベントを行ったが集客目標の5倍となる約2,000人の方にご来場いただけた。全国にある有休施設をイベント会場として活用できる可能性も十分にある。今後もこういった出張型イベントについても積極的に行なっていきたい。


都市型のEVカートという新しい取り組みが、“見るスポーツ”から“体験するスポーツ”へ、そして“学ぶスポーツ”へとモータースポーツの可能性を広げている。谷本氏そしてTOM'Sの挑戦は、モータースポーツの未来を変えていく—そう確信させられる取材だった。

全日本カート選手権EV部門 オフィシャルサイト
https://kart-ev-div.city-kart.jp/

シティサーキット東京ベイ オフィシャルサイト
https://city-circuit.com/