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RACING-DRIVER.JP編集部
2026.05.21

日本人史上初WRC2連勝。勝田貴元がラリージャパン前に語った“勝利の意味”と“次世代への思い

2026年5月21日(木)レッドブル・アスリートでWRCドライバーの勝田貴元選手がラリージャパンを前に東京都内のレッドブルの日本オフィスでメディアの取材に応じた。

今シーズン、勝田選手はサファリ・ラリー・ケニアでWRC初優勝を飾ると、続くクロアチア・ラリーでも勝利。日本人として34年ぶりのWRC勝利、そして日本人として初の2連勝を達成し、日本人WRCドライバーとして新たなステージに立っている。勝田選手が見据えるのは、5月28日に開催が間近に迫った母国ラリージャパンでの勝利。そして、その姿を通じて、若い世代がもっと大きな夢を持てるモータースポーツ界への道筋を築くことだ。

初優勝と2連勝。それでも「地に足つけて」

WRC初優勝、そして2連勝を果たして迎えるラリージャパン。ホームレースにかける想いは強いが、勝田選手はこれまでとは少し違う心境でラリージャパンに臨む。

「今年ケニアで初優勝することができて、その後クロアチアラウンドで2勝目、2連勝ということで目標としていた初優勝をまず今年達成することができました。その上でラリージャパンは、昨年まではシーズン終盤や最終戦での開催でしたが、今年はシーズン中盤ということもあって、今までとはちょっと違った雰囲気があります。でも気持ちの部分ではそんなに大きく変わった部分はなく、ホームでしっかりといい結果を出したいという思いとやっぱり優勝しているからこそ、今まではここで絶対勝たなきゃ、今年中に勝たなきゃというプレッシャーがありましたが、今年はそういったプレッシャーはないので、余計なプレッシャーはなく自分のやるべきことに集中できるかなという心境です。」

初優勝、2連勝という結果は大きい。それでも勝田選手は、勝った後こそ大切だと考えている。
「2連勝したからというわけではなく、どちらかというと初優勝したケニアもそうだったんですけど、良い結果を出せた後の方が大事だといつも思っています。また優勝できるようにというのはもちろん、今年シーズンを通して良い結果を残すことを目標にずっとやっているので、そのあたりを考えた上で地に足つけてやっていきたいなと思っています。」

“勝てる速さ”をどう使うか

今季の勝田選手は、速さだけでなく安定感も際立っている。その理由として本人が挙げたのは、WRCで積み重ねてきた経験と精神面の変化だった。

「ここまでWRCに参戦し、様々なことを経験をしてきて、自分のスピードもある程度理解し、勝てるスピードもある中でそれをどうコントロールするのか。ラリーは色々なコンディション、環境下でやっていくスポーツなので、その都度、柔軟性のある判断力が必要になってくるのですが、これまで培ってきた経験をもとに今シーズンは、自分も落ち着いて判断できているかなと感じますし、そこが今年大きく変わった点かなと思っています。あとは、精神面ですね。無理に負うことがなくなったというか、優勝を目指して全力で戦っている中でも、間違ったタイミングでの無理なプッシュはしなくなった。それが安定して結果が出せている要因かなと思います」

もちろん、ラリーは攻めなければ勝てない。そのバランスをどう取るかが、今の勝田選手にとって重要なテーマになっている。
「攻めていかないとやっぱり勝てないスポーツなのでこれからも攻める部分は攻める。ただ自分の中で守るというよりかは、展開をしっかり読みながら、ラリーの1週間全体を見ながら組み立てていくというところを、もっと研ぎ澄ましていけるようにしたいなと思っています」

勝利が、ラリーを広げるきっかけになる

WRCで勝利したことで、勝田選手の周囲にも変化が生まれている。これまでラリーやWRCに触れてこなかった人たちにも、その存在が届き始めているという。

「初優勝、そして2連勝できたこともそうですけど、成績を残すことができた後に、メディアの皆さんに色々と報道していただいたおかげで今までWRCという存在やこの競技自体が届かなかった人のところまで届くようになったと感じています。これからもっと良い結果を残して、更に露出を増やしていけたらと思っています。モータースポーツだけでなくどんなスポーツでも、日本を代表する選手が世界で頑張る・活躍するというのは、その競技のファンでなくても共感できますし、今ですとサッカーの日本代表選手でしたり、同じ日本人として応援したいという気持ちが強くなると思うんです僕が今、ラリー選手権に唯一参戦している日本人選手として、これからもっと結果を出して、そういった機会を増やしていきたい。そこは今までも強く思っていましたけど、今回の2連勝でより感じた部分でもあるので、より責任感を持って戦っていきたいなと思っています

勝つことで注目が集まる。注目が集まれば、ラリーを知る人が増える。そして、その中から次の世代が生まれていく。
勝田選手は、自分の結果が日本のモータースポーツ界に与える意味を強く噛み締め力強く我々メディアに語ってくれた。

子どもたちへ「諦めなければ絶対に何かにつながる可能性がある。大きな夢を持ってほしい。」

今回の取材で、勝田選手が特に熱を込めて語ったのが、若いドライバーや子どもたちへの思いだった。

勝田選手自身もレーシングカートからキャリアを始め、サーキットレースを経てラリーへ転向した。だからこそ、若い世代が夢を持ち、それを支えられる環境の重要性を実感している。

「今は僕も現役なので、(子どもたちに対して)やりたいことも限られてしまうのですが、少しでも子どもたちにサポートできることはしていきたいです。近年はカート協会(一般社団法人日本カート協会)という組織が発足し、レーシングドライバーの山本尚貴さんが代表理事として、子どもたちをサポートしている団体もあります。僕も協会の皆さんとはよく話をしていて、僕もカート出身なので子どもたちが夢をもてる環境を支えたい。将来F1ドライバーになりたい、WRCドライバーになりたい。そう思っていても、子どもは子どもなりによく考えていて、『これは非現実的だよな』とか、『自分には無理だな』とか、『世界には行けないな』と思ってしまうこともあると思うんです。モータースポーツは良くも悪くもお金がかかるスポーツなので、強い思いを持って頑張っている子がつながっていける環境を、将来的に作っていきたいなと思っています

ラリーを目指す道についても、まだ整っていない部分があると感じている。

「今カートで頑張っている子たちがいずれラリーに行きたいと思った時にもっと(ラリーの世界に)入りやすい環境を作りたいです。僕もサーキットレースから最初ラリーに来た時、父、祖父がラリードライバーのラリー一家なのでラリー競技の環境はありましたけど、それでも簡単じゃなかった。もし祖父、父の存在がなければ、もっとハードルは高かったと思うんです。今はトヨタさんがTOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジでしたり、モリゾウチャレンジカップなどの入門向けのラリーもやっているので、ラリーの世界に新しく入れる幅は広がっていると思います。ただ、本当にそこに行きたいとなった時にすぐに走れるのかというと、まだまだ体制は十分には整っていないと思うので、僕は一人のドライバーとして、そういった環境もちゃんと作っていきたいという思いは強く持っています」

そして勝田選手が若い世代に最も伝えたいのは、テクニックや考え方以前に「大きな夢を持つこと」だ。

子どもたちには、とにかく大きな夢を持ってほしいと思っています。僕が世界で活躍したいって思ったきっかけは、当時カートの世界選手権で勝つことができず、悔しくて、リベンジしたい、世界で勝ちたいという思いが芽生えたのがきっかけなのですが、まだ小学生ぐらいの子が「自分は日本国内でこれぐらいのレベルまでいけたらいいかな」という声を聞くと、『なんでそんな夢でいいの』と思ってしまう部分もあります。そういった子たちが自信を持って自分はここまで行きたいと言えるような環境やルートというか、道を作っていきたい。本当に小学生の子なんか可能性は無限大なので、諦めなければ絶対に何かにつながる可能性があるし、大きな夢を持ってほしいですね。小さくまとまってほしくないという思いはすごくあります」

たとえ笑われても、夢を口にすること

勝田選手もまた、最初から周囲に信じてもらえていたわけではない。ラリーを始めた当初、WRCで勝つことを目標に掲げたとき、それを本気で受け止めていた人は多くなかったという。それでも勝田選手は、口にし続け頂点を目指し続けた。

「僕も最初、WRCで活躍し優勝するためにラリーに来たって言った時は笑われることもありましたし、実際にできると思っていた人がどれぐらいいたかというと、多分ほとんどいなかったと思うんですね。もちろん自分の実力だけではないですが、徐々に成績を収めることができた。それは周りの方のサポートがあった上でのことですが、そういう思い(ラリーへの転向当時の悔しい思い)がなかったらここまで辿り着けなかったと思うんです。だから、子どもたちがより大きな夢を持って、それを公の場でも自信を持って語れるような、そんなモータースポーツ界というか、環境にできるようにしたいなっていう強い思いはずっと持っています

速さだけではない。夢を持つこと。口にすること。諦めずに続けること。そして、その夢を支えられる環境を作っていくこと。勝田選手の挑戦は、次の世代にとって大きな道しるべになることだろう。

支えてくれた人たちへの思い

勝田選手の言葉の重みには、決してここまで順風満帆に来ることができなかった苦労や挫折がある。レースからラリーへ転向した当初は、リタイアやクラッシュも多く、結果が出ない時期もあった。それでも諦めなかった理由について、勝田選手はこう語る。

「厳しい状況、難しい状況というのは今までたくさん経験してきて、一つにピックアップすることはできないんですけど、その都度やっぱり思うのは、ここで諦められないっていう思いです。それは自分がどうなりたいから、将来成功したいからというよりかは、ここまで来るまでに、これだけ多くの方にサポートしてもらって、手伝ってもらって、自分が今ここにいて走れている。そこで諦めたら、それを全て無駄にしてしまうのではないかと感じています。」

支えてくれた人たちへの思いが、勝田選手を前に進ませてきた。
「ラリーを始めた当初、最初の1、2年はリタイアやクラッシュが多かったり、経験不足でなかなか結果が出ない時期がありました。転向したのは間違いだったかなって思う瞬間もなかったと言ったら嘘になります。そういった状況の中で、自分のポテンシャルを信じて応援してくれた人だったり、支えてくれた人への感謝、その人たちの気持ちを踏みにじるわけにはいかないという思いが、難しい状況の時はすごく心に残っていましたその為にも結果を出して、自分が選んだ道が間違ってなかったということだったり、その人たちが自分をサポートしてくれたことが時間の無駄じゃなかったということを証明したいという思いがありました

ラリージャパンへ「必要な準備をして、必要な戦い方をする」

最後に間近に迫ったラリージャパンに向けて勝田選手は目標を語ってくれた。
「やっぱりホームラリーというところで、結果を出したいという思いはすごく強いです。優勝を経験しているからこそ、自分の中でそこだけを追い続けるというよりかは、ラリージャパンで優勝するためにどう戦えばいいのか。変なプレッシャーはなくなった気がします。やることはそんなに大きく変わっていなくて、勝つために、良い結果を出すために、このラリージャパンで戦うために必要な準備をして、必要な戦い方をする、必要な走りをする。それだけです。間違いなく今年もラリージャパンは自分の中で一番大事なラリーとして捉えていますし、今年は特に現行のRally1(ラリーワン)での最後のターマックラリーということでより多くの方に見ていただきながら、その前で優勝できるように頑張りたいと思います」

WRCで勝つこと。
ラリージャパンで勝つこと。
そして、若い世代が世界を目指せる環境を作ること。

勝田貴元選手の挑戦は、ひとりのドライバーの挑戦にとどまらない。日本のモータースポーツ界の未来へつながる挑戦でもある。